Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
Read 新潮記 (しんちょうき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 155,541 characters · 305 screens
そこは四帖半ほどの小部屋で、廊下に面したほうに障子、(明けたままだった)うしろに襖があり左右は壁だった。明けてある障子の間から、廊下を越して庭が見える。ほんのひとまたぎの狭さではあるが、古いぐみが一本あって、朱色に熟れた実がびっしりと生っていた。秀之進はそのぐみの枝を見たとき、遠い遠いむかし別れた幼な友達に再会したような、切ないほどの懐かしさにぎゅっと胸をしめつけられた。……ぐみの木の脇には四方仏のつくばいがある。どうしてそんなところにつくばいなどがあるのかわからないが、ずいぶん古いものらしく、角々がまるくなり彫面もはっきりしないほど摩滅している感じが、これもどこか記憶の隅に印象があるように思えた。
取次ぎに出た若い家士は、なんども廊下を往復した。秀之進はじっと待っていた。……廊下の右に三つほど部屋が続いているらしい。そのはずれの部屋と思えるあたりから、客たちとあるじの話し声がさかんに聞えてくる。あるじ宗兵衛だろう、少しかすれた、力のある老人の声が最も大きく、しかも大抵の話題を独り占めにして、熱心な、浮き浮きしてさえいるような調子で、論じたてたり、笑ったりしている。