Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
Read 新潮記 (しんちょうき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 155,541 characters · 305 screens
それはいかにも大助らしい純真な、温かい、思い遣りの深い気持だった。そしてかれのひとがらの好さは娘にも察しがついたのであろう、殻を閉じたような緘黙の態度こそ変えなかったが、大助の云うことにはおとなしく頷くようになった。
遺骨の一片を拾って、かれらは山麓からこの箱根へ来た。そして塔ノ沢にあるこの温泉宿へ草鞋をぬいでから今日でもう七日めだった。
「おさげ申してもよろしゅうございますか」宿の婢が食膳をさげに来た、「今夜はこの下の柏屋に軍談講釈がかかるそうでございます、もしおいでなさいますのでしたらお席をとって置きましょうか」
「講釈だそうです、聞きますか」大助は娘をかえりみた。
「いいえ、わたくしは……」藤尾はかすかに身震いをした。
宿の婢が食膳をさげてゆくと間もなく、早川の瀬音にまぎれていた雨が、しだいに強く、はっきりと軒を打つほどに降りだした。
大助は立ちあがって窓を明け、闇を罩めて降る雨脚のかなたに、白く泡を噛んでいる渓流をじっと見まもった。昨日あたりからかれは心を急いている。早く秀之進のあとを追わなければならぬからだ。もう遅れすぎてさえいる。秀之進がどう思っているかと考えると、すぐにも此処を立っていきたい気持だった。