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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
Read 新潮記 (しんちょうき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 155,541 characters · 305 screens
「ならば折をみて」と寅寿はべつにありがたそうなようすもなくそう云った、「高松のほうへでも送って頂きましょうか、その方がさらに安全でござろうから」
とにかく二人に会おう、内膳はそう云って、供待ちにいる大峰と矢田部を呼ばせた。大峰庄蔵は眉の太い頬骨の尖った男で、彫りつけたような深い皺が二本、ぎゅっと額を横にひいている。矢田部源七郎はごくあたりまえな顔だちで、どこという特徴もなかったが、身ごなしや言葉のはしはしに、どこやら粘りつくような、芯の強さが感じられた。
「よろしくおたのみ申します」
寅寿の紹介で、二人はそれでも鄭重にそこへ手をおろした。
「のっぴきならぬ事情ゆえ、ともかくもお匿まい申すが、当家とても存じの如く以前とはいろいろ都合も変っておる、たのみ甲斐なしとも思われようが、いざという時の覚悟はして置いて呉れるよう」
「おたのみ申す以上その覚悟はございます」庄蔵がはっきり答えた、「万一の折には、決して御当家の御迷惑とならぬよう自決を致します」
「そのお覚悟さえあればできるだけのお世話は仕る、いまも結さまのおはなしで、よき折もあらば高松へ移したらということであった、さいわい来月には当お上が参覲のおいとまにて御帰国のはずゆえ、そのときまでには方策をたてると致そう、それまでは窮屈を辛抱して貰わねばならぬ」