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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
Read 新版 放浪記 (しんぱん ほうろうき) by 林 芙美子 (はやしふみこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 247,330 characters · 497 screens
このひとは大島伯鶴というのが好きだとかで、飽きもせずに寄席の話ばかりしている。
宛名を書くのがめんどう臭くなって来る。ぼんやりとしてしまう。ふっと横の砂壁にちらちらと朝の陽が動いている。幻燈のようなり。池田さんも、富田さんも大島の羽織で、日給八十銭の女事務員には見えない。池田さんは眼は細いけれども芸者にしてみたいような美人なり。干物屋の娘のせいか、いつもにきびがどこかに出来ている。
何という事もなく、夫婦別れというものは仲々出来ぬものなのかと思う。夫婦というものが、妙なつながりのように考えられて来る。昨夜も義父と母は、あんなに憎々しく喧嘩をしあっていたくせに、今朝は、案外けろりとしてしまっていた。義父と母が別れてさえくれたなら、私は母と二人きりで、身を粉にしても働くつもりなのだけれども、私は、義父が本当はきらいなのだ。いつも弱気で、何一つ母の指図がなければ働けない義父の意気地のなさが腹立たしくなって来る。義父は独りになって、若い細君を持てば、結構、自分で働き出せる人なのであろう……。母の我執の強さが憎くなって来るのだ。
また琵琶の音が聴える。別にこの仕事に厭気がさしているわけではないけれども、長く続けてゆける仕事ではないと思う。