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めいじびじんでん

新編 近代美人伝 (上)

長谷川 時雨

Read 新編 近代美人伝 (上) (めいじびじんでん) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,076 characters · 256 screens

Aozora Bunko

その女が東京へ出ることになったおり、お園親子にも上京を勧めた。それが綾之助となる動機――振りだしで、お園が十一歳のおりのことである。日本橋久松町に住む近親をたよってゆくと、その人が知己を招いてお園の浄るりを聞かせた。それが東京での封切りであった。その折、市村座の座主がお園に目をつけ説きすすめて、芸の人として立たせる第一歩の導きをしたのである。お園は竹本玉之助となり、浅草猿若町の文楽座に現われることになった。真打ちはその頃の大看板竹本京枝であった。

明治十八年――世にいう鹿鳴館時代である。上下挙って西洋心酔となり、何事にも改良熱が充満していた。京枝一座も御多分に洩れず、洋装で椅子にかけ卓にむかって義太夫を語った。そんな変ちきな容も流行といえば滑稽には見えず、かえって時流に投じたものか連日連夜の客止めの盛況であった。が、勇みたった玉之助のお園の初目見得は、思いがけぬ妬みを買った。京枝の弟子の竹子は、かなりの人気者であったが、玉之助が出現して、麒麟児の名を博してからは、月に光りを奪われた糠星のように影が薄くなってしまった。それかあらぬかこの大入りの興行が、突然何の打合せもなしに、狼藉ふためいて興行主から中止されてしまった。