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めいじびじんでん
新編 近代美人伝 (上)
長谷川 時雨
Read 新編 近代美人伝 (上) (めいじびじんでん) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,076 characters · 256 screens
日も時刻も何もかもみんなおなじようであった。ただ柩に引添う彼女が見られなくなったばかりで、式場の光景は一層盛大で、数々の花環に取りかこまれ、名ある新旧俳優も列し、弔辞が捧げられた。けれども彼女が遺書の中に繰りかえし繰りかえして頼んでいった抱月氏との合葬のことは問題になった。坪内先生の説は並べて墓を建てたらというので、それには未亡人も、
「坪内先生のおっしゃる事にはそむかれない」
と許したのであったが、かえって彼女の親戚側の方から、
「島村氏と一緒にいたことさえ良いとは思わなかったのだから」
と頑迷なことを言出したため、彼女がとっておいた島村氏の遺髪と一所に葬ることにして、遺骨は信州へ持ちかえられた。彼女ほどに透徹した人生をおくったものが、墓地などの形式を気にかけたのはおかしいが、古来の伝説や何かに美化されたものを思いだしたのでもあろう。
彼女は何故死んだ、芸に生きなかったかとは言いたくない。彼女には宗教もない、彼女の信仰は自分自身であったのであろう。その本尊が死を決したときに芸術も信仰も残らぬはずである。楠山氏への偏愛問題とかが脚本部動揺の基になっていたようであったが、彼女がこの後いくら生ていて誰れに愛を求めようとも、抱月氏の高さ、尊さが、胸に響きかえってくるばかりで、決して満足のあるはずはない。