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いちかわくめはち
新編 近代美人伝 (下)
長谷川 時雨
Read 新編 近代美人伝 (下) (いちかわくめはち) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 138,172 characters · 277 screens
その時、
「さまは、どうしてあんなことをなすったのでしょうね。」
と、突然と武子さんがいった。それは、白蓮さんが失踪して間もなくで、世上の悪評の的になっているときだった。
二人は目を見合わせたきりで、探りあう気持ちだった。この人は、もっともっと大きい苦悶をかくしているなと、思った。
震災に、なんにも持たずに逃れ出たが、一束の手紙だけは――後に焼きすてたというが、――あの中で、おとしたらばと胸をおさえて語ったお友達がある。――そういえば、秋の夜であり、きくであり、そのほかにも、種々のかえ名があるにはあったが――
武子さんは、もうちゃんと、ああ出来上ってしまって、あれがいいのだから、美人伝へよけいな感想なんか書いてはいけないと。知っている人たちがみんなこういう。もとより、武子さんはわたしも大事にする。けれど、もっと大胆に、いいところをいってもいい、人間らしいところを話ても、あの方の苦節に疵はつきはしない。お人形さんに、あの晩年の、目覚めてきた働きは出来ない。本願寺という組織に操られてでも、それを承知で、自分自身だけの、一ぱいの働きをするということは、ああいう場処にいる人には、あれでよいので、あらゆる事に働き出そうとしたことは、劇や舞踊の方にまで進んで、かなり一ぱいの努力だったと思う。