Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

いちかわくめはち

新編 近代美人伝 (下)

長谷川 時雨

Read 新編 近代美人伝 (下) (いちかわくめはち) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 138,172 characters · 277 screens

Aozora Bunko

渡り廊の方に、聴きに寄っているものたちがいる様子で、父は向うの居間で聴いている気配だった。襖の横には妹たちが来た。

荘重なる音色、これが箏かと思われるほど、他の流とは異なる大きやかな、深みのある、そして幅広い弾奏だった。十三弦は暴風雨を招んで、相模の海に荒ぶる、洋のうなりと、風雨の雄叫けびを目の前に耳にするのであった。切々たる哀音は、尊を守って海神に身を贄と捧ぐる乙橘媛の思いを伝えるのだった。

唄い終ってしまってからも、最後の音が残されていた。心ゆくばかりに弾じたのであろう心足らいに、暫時の余韻をもって絃の上から手はおろされた。

恍惚とした聴者たちは息をつくものもなかった。薄くにじむ涙を、そっと拭きとると、鼻をおさえているものもあった。少時口をきくものもないでいると、鼓村師も満足げに、水の面の方へ眼をやっていた。

五月の潮の、ふくれきった水面は、小松の枝振りの面白い、波除けの土手に邪魔もされず、白帆をかけた押送り船が、すぐ眼の前を櫓拍子いさましく通ってゆくのが見える。

「ああ、よかった。」

誰いうとなく呟やきかわすと、

「あの船も、あっちゃから来たんじゃね。