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いちかわくめはち
新編 近代美人伝 (下)
長谷川 時雨
Read 新編 近代美人伝 (下) (いちかわくめはち) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 138,172 characters · 277 screens
「ニースへ別荘をつくろうか。」
モルガンは気を代えるようにいうのだった。
モルガンにすれば、はじめてニースに来て見た旅行者ではなかった。幾度か華の巴里の華やかな伊達女たちと、隠れ遊びにも来ているのだが、不思議なほど清教徒になっていた。
一流のホテルが、各自にその景勝の位置を誇って、海にむかって建ち並んでいる。その前側が大きな弓型の道路で岸の中央に、海に突出して八角の建物のカジノ・ド・フォリーが夢の竜宮のように青ばむ夜を、赤々と灯を水に照りかえしている。
ホテルの窓々からも、美しい灯が流れ出しはじめた。山麓のそこ、ここからも竜燈のような灯が点りだした。天の星は碧く紫にきらめいているが、竜燈は赤く華やかだ。
「青い月。」
と、モルガンは、窓へお雪を呼んだ。
「こんな月、見たことありますか。」
え、とお雪はうっかりした返事をしていた。洛外嵯峨の大沢の池の月――水銹にくもる月影は青かったが、もっと暗かった。嵐山の温泉に行った夜の、保津川の舟に見たのは、青かったが、もっと白かった。
宇治橋のお三の間で眺めた月は――といいたかったが、それは誰と見たときかれるのが恐くって、お雪は、ふっと、口をつぐんでしまった。