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いちかわくめはち
新編 近代美人伝 (下)
長谷川 時雨
Read 新編 近代美人伝 (下) (いちかわくめはち) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 138,172 characters · 277 screens
その子は――民雄は、岩野泡鳴氏の遺児ではあったが、当時の岩野夫人清子には実子ではないという事だった。父につかないで、清子さんの養子になり、離婚後も母と子として一緒にいた薄命な子だった。
泡鳴氏には、他にも子供は沢山ある。清子さんより先妻のお子、清子さんより後の妻の子。だが、清子さんとの結婚が風がわりであるばかりか、その子になっている民雄も、また別の腹に生れている不幸な子だ。
四十九歳で死んだ岩野泡鳴も、十九年間、わびしく墓表ばかりで、それも朽ち倒れかけた時、やはり荒木郁子さんの骨折りで、昨年、知友によって立派な墓石が建てられた。この人の半獣主義、刹那哲学、新自由主義は、文芸愛好者の、あまりにもよく知っていることだが、まだ知らぬ人のためにもと、昨年建てられた石碑の、碑文は、尤も簡単でよく述べられているから、それを記しておこう。
岩野泡鳴本名美衛、明治六年一月二十日淡路国洲本に生る。享年四十八歳、大正九年五月九日病死す。爾来墓石なきを悲み、友人相寄り此処にこの碑を建つ。泡鳴著作多く、詩歌に小説に、独自の異才を放つ。その感情の豊饒と、着想の奇抜は、時人を驚せり。