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いちかわくめはち
新編 近代美人伝 (下)
長谷川 時雨
Read 新編 近代美人伝 (下) (いちかわくめはち) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 138,172 characters · 277 screens
下の水の色とともに目にうかべ、思い出していた。
「出しものは道成寺だ。勧進帳を出したのは、興行師らから、断わりきれない頼みだったんだ。そのこたあ、おとねだって知ってたのに。」
それがもとで、市川升之丞の名を取り上げられ、九代目団十郎から破門され、また岩井粂八の名にかえって、暫く蟄伏しなければならなかった、嫌な思出と、若かった日のことなども、それからそれへと、九女八も思いうかべている。
「お師匠さんは、新潟へ入らしった時から、九女八だったとばっかり思ってました。あたし、ちいさい時でしたから。」
「市川升之丞さ。」
九女八は、莨の脂の流れた筋が、飴色に透通るようになった、琥珀のパイプを透して眺めて、
「あたしは、一番はじめの、踊の名取りが阪東桂八さ。それから、女役者になって岩井粂八、それから市川升之丞、守住月華、市川九女八さ。」
随分とりかえたものさねと、自分のことではないような、淡々としたふうにいって、
「だが、師匠運は、ばかに好いのさ。阪東三津江というお狂言師は、永木三津五郎という名人の弟子で、まあ、ちょっとない名人だよ、高名なものさ。岩井半四郎は、大杜若と呼ばれた人の孫だったかで、好い容貌の女形だった。