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いちかわくめはち
新編 近代美人伝 (下)
長谷川 時雨
Read 新編 近代美人伝 (下) (いちかわくめはち) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 138,172 characters · 277 screens
胸にそゝぐ涙のひぎき堪へがたし、暗にうもれて君しのぶ時
心あひの友といふをもはゞかりしかひなき我は世にのこれども
峰百合子女史は、
ゆきあひし駒込道はちかけれどふたゝび君に逢ふよしのなき
いたづらに窓の日かげをまもりつゝ、帰らぬ友の行方をぞおもふ
片山広子女史は、
うつくしきものゝすべてをあつめたる其うつそみは隠ろひしはや
さわやかにいと花やかに笑みましゝ、今年の春ぞ別れなりける
書きながすはかなき歌も清らなる御目に入るをほこりとぞせし
千人はゆふべに死にて生るとも二たび来ます君ならめやは
豊島のや千本のいてふ落葉する夕日の森に御供するかな
なき世まで君が心のかゝりけむその幼児をいだきてぞ泣く
掘りかへす新土の香も痛ましう夕日にそむき只泣かれける
と嘆きうたわれました。誰の胸にも楠緒女史は、美しい面影と思出を残してゆかれました。まして大塚博士の悲しみはどれ程でありましたろう。御自分でも癒るとばかり信じていた死の床の枕上には、紙の白いままのノートが幾冊か重ねられてあったという事でした。そういう悲しい思出は数ある楽しかったことよりも深く、博士が腕に抱えて帰京なされた、遺骨の重味と共に終世お忘れにならないことでしょう。