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いちのくらさわなんりょう
新編 風雪のビヴァーク
松濤 明
Read 新編 風雪のビヴァーク (いちのくらさわなんりょう) by 松濤 明 (まつなみあきら) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 25,081 characters · 51 screens
二〇〇米ほど登ると、ついにぼろぼろに風化した崩壊壁に直面した。傾斜のゆるい真ん中あたりは落石が怖ろしく、とうてい歩く気は起こらないので、顕著なリッジ状のところを選んで取り付いた。うかつに手をかけると大きな岩がグラリと動く。はっとして身をねじると腹のあたりをかすって轟然たる響きとともに砂煙りを上げてすっとんで行く。触れる岩触れる岩、片端から動いて、ついには乗っている足場まで危くなってくるのだった。ところどころにあるザレ混りの部分は、一つ一つピッケルでステップを切った。直射する日光にベットリ汗ばんだ額に砂挨りが不愉快にこびりつく。苦闘三時間、ようやくこれを越えて足下のさだまった森林帯に身を埋めることができた。わずか二〇〇メートルくらいのこの壁に身も心も疲れ果てて落葉の中に突っ伏して荒い息をついた。肩に喰い込んだ重いルックを久方ぶりに地に下ろし、うまいうまい一服を愉しむ。このあたりの木立は冬枯れした枝に明るい色がみなぎって、心からのんびりすることを許されるのだが、しかしこの貧しい平和も長く愉しむわけにはいかない。
左にガレを見下ろしながら、木立の中を縫って急な登高をつづける。