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いちのくらさわなんりょう
新編 風雪のビヴァーク
松濤 明
Read 新編 風雪のビヴァーク (いちのくらさわなんりょう) by 松濤 明 (まつなみあきら) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 25,081 characters · 51 screens
しかし大切な甘納豆がそこら一面に飛散して物にならなくなってしまったのは、最も身にこたえた。烈しいショックを受けた後ではあったが、昼間の疲れでいつしかうとうとと眠り込んでいった。
三月二十七日 晴
明るい朝だった。
気分を取り直して、予定通り光岳への往復に取りかかる。見たところ四、五時間もあれば行ってこられそうなので、荷は全部ルックに詰めてビバーク・プレースに置き、ピッケル一本持って出発する。
非常に雪が深い。さんさんと輝く陽に、春の雪は泥濘のごとく重い。ブッシュの中を右に左にと潜り抜けて、屈曲の多い複雑な尾根をいっしんに辿ったのだが、イザル岳との最低鞍部まで下りたところで、どこが主稜やらわからなくなった。ここは信濃俣河内の西沢のツメに当っており、一面に展開してまるで庭園のような印象を与える。主稜と覚しきあたりを選んで二、三回ぶつかってみたが、えらく急傾斜でどれも尾根らしくないのですぐ引き返した。そうしながら次第に西側へ廻って行くと、ようやく本当のコルへ出た。このところ国境線は甚しく右に屈曲していて、よほど注意しないと見失ってしまう。どんなに右に曲っても曲りすぎることはない。