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いちのくらさわなんりょう
新編 風雪のビヴァーク
松濤 明
Read 新編 風雪のビヴァーク (いちのくらさわなんりょう) by 松濤 明 (まつなみあきら) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 25,081 characters · 51 screens
雪の上に寝そべってトカゲしながら聖を眺めた。南の山はじつに大きい。切り込みが、鋭くはないが、北の山に比べて非常に深い。あの真っ白な稜線を伝って小さな小さな黒点が、ポツリポツリとここまで移動してきた、その黒点が私なのである。はるばるとまあよく来たものだと思った。最後の目標赤石も、あと三時間もあれば必ず行ける。そこまで行ってしまえば、もはやどっちの方向へ下ろうとも勝手なのだ。その見ぬ幸福を想像しながら、のびのびと懶惰をむさぼった。一時十分、いよいよ赤石の登りにかかる。アイゼンがよく利くようになった。百間平では鷹の飛ぶのを見た。見ていると、みるみるうちに大沢岳のかなたに黒点となって消え失せ、それが再び矢のように馳せ戻ってくる。それはこのうえもなく羨しいものだ。
赤石の登りは予想外に長い。百間平の平坦地はやや軟雪で、アイゼンでは潜って歩きにくかったが、大赤石とのコルからは傾斜は増したが、再びアイゼンがよく利くようになった。最後のちょっとした岩場を攀じ、露岩を縫って緩慢に歩を運び、四時十五分ようやく大赤石の頂上に立った。もはや目の及ぶかぎりで自分より高いのは、奥西河内をへだて、夕陽にほんのりと染まっている悪沢岳が唯一のものである。