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いちのくらさわなんりょう
新編 風雪のビヴァーク
松濤 明
Read 新編 風雪のビヴァーク (いちのくらさわなんりょう) by 松濤 明 (まつなみあきら) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 25,081 characters · 51 screens
路傍の裸になった木に小鳥が群れをなして騒いでいる。近づくとそのたびにいっさんに飛び立って、まるで路案内でもするように上手の木に移ってゆく。一人旅の無聊はこんな些細なものによってもよく打ち払われた。
尾根に出ると、とたんに視野がパッと展ける。振り返ると天竜川を隔てて穏やかな木曽駒の連峰が蒼空に波うっている。午後の陽は既に西に廻って、こちらの側はもうほんのりと蒼みがかって、その足下に飯田の町はゴマ粒のような軒を並べている。はるばるとよく来たものだ、とつくづくと打ち眺めた。尾根の反対側には索道のあるという小川川が一面の木の海の中に沈んでいる。ここももう黄昏の中である。
汗馬沢の茶屋までは意外に遠い。尾根には無数の小突起があって、路はいずれも西側をうねうねとからんで行く。廻り角に来るたびに今度こそはと期待しながら覗くのだが、そのたびに当てが外れる。小川路峠の頭がすぐ間近に迫ってその肩のあたりに堂屋敷と覚しき家並が見えて来た頃、ようやくその前に出た。大きな家だ。茶屋というよりは山家とでもいった方が相応しい造りである。まだ四時前で堂屋敷まで充分行けると思ったが、朝の失敗で気を腐らせていたので、この日はここに泊ることにした。