Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

りょしゅう

旅愁

横光 利一

Read 旅愁 (りょしゅう) by 横光 利一 (よこみつりいち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 576,941 characters · 1138 screens

Aozora Bunko

この間老人は少しの表情もなく、他人の方を一度も見ようとしなかった。矢代が後で塩野に老人のことを訊ねると、それは有名な船会社の社長の木山だということだった。一介の貧書生から実業界の大物に登り上り、一時は成金の代表者のように云われたことのある、この木山の力量の冴え方については、前からたびたび矢代も聞いて知っていた。が、よく見ていると、誰からも一度は軽蔑を買いそうなその貧しげな姿ながらも、とりわけ、動きのない一重瞼の薄さに、鋭敏俊慧な直感力が潜んでいると矢代は思った。

会場の空気に疲れ、矢代がお茶を飲みたくなったころ、塩野の叔父が黒の背広で会場へ顕れた。内閣を引いたばかりのこの人には、矢代は今初めて会うのだったが、写真ではいつも見ていてすぐ分った。

老人たちは矢代には分らぬ他人の話を、暫くより合ってしているだけで、あまり写真の方には気をつけて見ようともしなかった。

塩野の叔父は意志の強そうな、やや金窪眼の老人とはいえ、声には張りが籠ってきんきんとよく響き、何より実行力の溢れたその確実そうな風貌には、世の荒波を押し渡って来てなお衰えぬ厚みがあった。殊に肩から胸へかけての手堅い力の盤踞した感じに、容易に内には籠りがたいまだ青年の名残りさえ感じられた。