Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

ぎじんのすがた

日本の怪談

田中 貢太郎

Read 日本の怪談 (ぎじんのすがた) by 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 56,030 characters · 115 screens

Aozora Bunko

冷麦は好物であった。

「その冷麦を貰いたいな」

「冷麦でございますか、はい、はい」と、茶屋の主翁(ていしゅ)は茶を汲もうとしていたのを廃(よ)して、冷麦をかまえ、それを皿に載せて持って来た。

甚六は膳の方に体をねじ向けて、冷麦の皿を持って喫(く)おうとかまえると、その皿に激しい刺激が加わって膳の上へ洛ちた。

「や、これは」と、甚六は周章(あわ)てて皿を持ちなおし、再び喫おうとしたが、また叩かれたようになって膳の上に落ちた。

「おかしいなあ」

甚六は己(じぶん)の手がどうかしているのではないかと思ったので、皿を持つ方の左の手を握ってみたり開いてみたりしたが、べつに手に異常があるとも思えなかった。

「おかしいなあ」

甚六は今度は皿を持つ方の手にうんと力を入れて、ずっと高く持ちあげて口の縁へ持って往った。そして、一箸口に掻き込もうとするとまた刺激が加わって、皿はつるりとすべって土間の上に落ちて真二つになった。

「これは、どうも、麁相(そそう)して面目ない」と、甚六はきまり悪そうな顔をした。

茶釜の傍から変な眼つきをして甚六の顔を見ていた主翁は、

「麁相ではありません、貴君の傍にいなさる小供さんが、貴君が皿を持とうとすると、手で叩き落しておりますよ、お伴(つれ)さんではありませんか」