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しゅんせつせん

日本プロレタリア文学集・8 葉山嘉樹集

葉山 嘉樹

Read 日本プロレタリア文学集・8 葉山嘉樹集 (しゅんせつせん) by 葉山 嘉樹 (はやまよしき) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 34,935 characters · 73 screens

Aozora Bunko

それは、総て健康な、清々しい情景であり、且つ「朝」の溌溂さを持っていた。

船体の動揺の刹那まで、私の足の踝にジャックナイフの突き通るまでは、私にも早朝の爽快さと、溌溂さとがあった。けれども船体の一と揺れの後では、私の足の踝から先に神経は失くなり、多くの血管は断ち切られた。そして、その後では、新鮮な溌溂たる疼痛だけが残された。

「オーイ、昨夜はもてたかい?」

ファンネルの烟を追っていた火夫が、烟の先に私を見付けて、デッキから呶鳴った。

「持てたよ。地獄の鬼に!」

私は呶鳴りかえした。

「何て鬼だ」

「船長ってえ鬼だったよ」

「大笑いさすなよ。源氏名は何てんだ?」

「源氏名も船長さ」

「早く帰れよ。ほんとの船長に目玉を食うぜ」

「帰る所なんかねえんだよ。ペイドオフ(馘首)の食いたてなんだ」

浚渫船のデッキから、八つの目が私に向いた。

「何丸だ?」

「万寿丸よ!」

「あんな泥船ならペイドオフの方が、よっ程サッパリしてらあ。いい事をしたよ」

彼等は、朝の潮に洗われた空気に相応しく快活に笑った。

それは、負傷さえしていなければ、火夫の云う通りであった。だが、今は私は、一銭の傷害手当もなく、おまけに懲戒下船の手続をとられたのだ。