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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Read 日本婦道記 (にほんふどうき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,885 characters · 27 screens
――あの方なら、あきつは夢中のようにそう思った、大三郎ならきっとまだ婚約の人などは無いに違いない、苦しまぎれではあったがそれだけの思案はつけていたのである。
「三河からおたよりがありまして」二人に顔が会うとよくそう云われた、「近いうちに御荷駄がゆくそうですから、あなたからもお文をおあげにならなければね」
「ぜひそうなさいまし、わたしも沢倉さまへは御荷駄のたびに差上げますの、だってそれが留守の者のつとめですから」
「ええそう致しますわ」あきつは俯向きながら答える、
「でもどうぞこのことは内証になすってね、知れたらほんとうに困るのですから、きっとお約束しましてよ」
そしてそう云うたびに、きまってぶるぶると怖ろしいほど身が震えるのだった。
長篠城の合戦が味方の大勝に終って、その知らせが浜松へ着いたのは、天正三年五月二十四日のことであった。留守城はよろこびのためにどよみあがり、城下町の隅ずみまで、活気のある賑わいに湧きたった。……そのさ中のことである。町まで買物に出たあきつが、お壕をまわって外曲輪の長屋へ帰ろうとすると、煙硝倉の下のところで見なれない老婦人に呼び止められた。