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にちりん

日輪・春は馬車に乗って 他八篇

横光 利一

Read 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) by 横光 利一 (よこみつりいち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 86,787 characters · 177 screens

Aozora Bunko

)

彼はにたりと笑いながら姪の上へ蚊帳(かや)のように被(かぶ)さった。

(待て、こりゃ俺に似とるぞ。)

彼は姪の唇を接吻した。つるつる滑(すべ)る乳臭い唇だ。姪は叔父を見ながら蝸牛(かたつむり)のような拳(こぶし)を銜(くわ)えようとして、ぎこちなく鼻の横へ擦(す)りつけた。

(こ奴(いつ)、俺そっくりじゃないか。)

彼は不思議な気がすると、笑いながら、俺の子じゃないぞと思った。

(よし。一人増した!)

彼は何かしらを賞(ほ)めてやりたかった。これこそ俺の味方だ、嘘(うそ)ではないぞ、と思った。

姉のおりかは笑いながら晴れやかな顔をして縁側(えんがわ)から上って来た。

「何時の汽車、二時?」

「こ奴俺に似とるね。似てないかね。」

おりかは娘を見下(みおろ)すと、黙って少し赧(あか)い顔をして肩から襷(たすき)をはずした。

「ね、似とるよ、何っていう名だね?」

「ゆきっていうの。」

「ゆき?」

「幸村(ゆきむら)の幸(ゆき)っていう字。」

「さいわいか?」

「そやそや。」

「あんな字か、俺ちゃんと考えといてやったんだがな。辞引(じびき)ひっぱったのやろ?」