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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Read 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) by 横光 利一 (よこみつりいち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 86,787 characters · 177 screens
それから、自分の顔と能力とを他人に批(くら)べた。
「何アに、俺に不足があるものか、必ず幸福にしてみせるぞ。他人の誰よりも俺は愛してやる。よしッ、何アに。」
彼はまた歩き出した。が、壊れ人形のような姪の姿がちらちらするとまた涙が出て来た。
「罪悪だ、実に馬鹿にしている、罪悪だ!」
彼は何か出張(でば)った石の頭に蹉(つまず)いて踉(よろ)けた。
「糞(くそ)ッ!」と彼は怒鳴(どな)った。
蕎麦屋(そばや)の小僧が頭に器物(うつわもの)を載せて彼の方へ来た。彼はその器物を突き落とそうとして睥(にら)みながら小僧の方へ詰め寄っている自分を感じた。小僧は眼脂(めやに)をつけた眼で笑いながら、
「ヤーイ。」というと彼の方へ片足をあげた。
彼は素通りした。三間(さんげん)ほども行き過ぎてから、器物を落とされたときの間の抜けた顔をしている小僧が浮ぶと、彼は唐突に吹き出して笑った。と、笑いながら酔漢(よっぱらい)のように身体を自由にぐらぐらさせて歩きたくなって来た。自棄酒(やけざけ)を飲みたくなった。
片腕のとれた姪を見る気がしなかったので、もう彼は直ぐ来る夏の休みにも帰るまいと思った。