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にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Read 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) by 横光 利一 (よこみつりいち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 86,787 characters · 177 screens
野牛の群は狂いながらひとり奴国の兵の断ち切れた中央を突きぬけて、遠く後方の森の中へ馳け過ぎた。
夜は全く降りていた。国境の噴火の煙は火の柱となって空中に立っていた。奴国の兵の夜襲の時は迫って来た。しかし、彼らの疲労は一段と増していた。彼らは敵の陣地の鎮まると一緒に芒の中に腰を下して休息した。長羅は彼らの疲労の状態に気がつくと、その計画していた夜襲を断念しなければならなかった。けれども、奴国の軍は次に来るべき肉迫戦のときまでに、敵の陣営から矢をなくしておかねばならなかった。それには夜の闇が必要であった。彼らは疲労の休まる間もなく、声を潜めて川原の中央まで進んで出ると、盾を塀のように横につらねて身を隠した。そうして、彼らは一斉に足を踏みたたき、鯨波の声を張り上げて肉迫する気勢を敵に知らしめた。対岸からは矢が雨のように飛んで来て盾にあたった。彼らは引きかえすとまた進み、退いては再び喊声を張り上げた。そうして、時刻を隔いてこの数度の牽制を繰り返している中に、最早対岸からは矢が飛ばなくなって来た。しかし、彼らに代って敵からの牽制が激しくなった。初め奴国の兵は敵の喊声が肉迫する度に、恐怖のために思わず彼らに向って矢を放った。