Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
にちりん
日輪・春は馬車に乗って 他八篇
横光 利一
Read 日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (にちりん) by 横光 利一 (よこみつりいち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 86,787 characters · 177 screens
「いらっしゃいませ。今晩はまア、大へんな降りでこざいまして。さア、どうぞ。」
灸の母は玄関の時計の下へ膝をついて婦人にいった。
「まアお嬢様のお可愛らしゅうていらっしゃいますこと。」
女の子は眠むそうな顔をして灸の方を眺めていた。女の子の着物は真赤であった。灸の母は婦人と女の子とを連れて二階の五号の部屋へ案内した。灸は女の子を見ながらその後からついて上ろうとした。
「またッ、お前はあちらへ行っていらっしゃい。」と母は叱った。
灸は指を食わえて階段の下に立っていた。田舎宿の勝手元はこの二人の客で、急に忙しそうになって来た。
「三つ葉はあって?」
「まア、卵がないわ。姉さん、もう卵がなくなってしまったのね。」
活気よく灸の姉たちの声がした。茶の間では銅壺が湯気を立てて鳴っていた。灸はまた縁側に立って暗い外を眺めていた。飛脚の提灯の火が街の方から帰って来た。びしょ濡れになった犬が首を垂れて、影のように献燈の下を通っていった。
宿の者らの晩餐は遅かった。灸は御飯を食べてしまうともう眠くなって来た。彼は姉の膝の上へ頭を乗せて母のほつれ毛を眺めていた。姉は沈んでいた。