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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Read 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 149,813 characters · 302 screens
凩も来た。土も、岩も、人の皮膚の色までも、灰色に見えて来た。日光そのものまで灰色に見える日があった。そのうちに思いがけない程の大雪がやって来た。戸を埋めた。北側の屋根には一尺ほども消えない雪が残った。鶏の声まで遠く聞えて、何となくすべてが引被らせられたように成った。灰色の空を通じて日が南の障子へ来ると、雪は光を含んでギラギラ輝く。軒から垂れる雫の音は、日がな一日単調な、侘しい響を伝えて来た。
冬籠りする高瀬は火鉢にかじりつき、お島は炬燵へ行って、そこで凍える子供の手足を暖めさせた。家の外に溶けた雪が復た積り、顕われた土が復た隠れ、日の光も遠く薄く射すように成れば、二人は子供等と一緒に半ば凍りつめた世界に居た。雲ともつかぬ水蒸気の群は細線の群合のごとく寒い空に懸った。剣のように北側の軒から垂下る長い光った氷柱を眺めて、漸の思で夫婦は復た年を越した。
更に寒い日が来た。北側の屋根や庭に降った雪は凍って、連日溶くべき気色もない。氷柱は二尺、三尺に及ぶ。お島が炉辺へ行って子供に牛乳をくれようとすると、時にはそれが淡い緑色に凍って、子供に飲ませることも出来ない。