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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Read 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 149,813 characters · 302 screens
板橋村を離れて旅人の群に逢いました。
高原の秋は今です。見渡せば木立もところどころ。枝という枝は南向に生延(はえの)びて、冬季に吹く風の勁(つよ)さも思いやられる。白樺(しらはり)は多く落葉して、高く空に突立ち、細葉の楊樹(やなぎ)は踞(うずくま)るように低く隠れている。秋の光を送る風が騒しく吹渡ると、草は黄な波を打って、動き靡(なび)いて、柏(かしわ)の葉もうらがえりました。
ここかしこに見える大石には秋の日があたって、寂しい思をさせるのでした。
「ありしおで」の葉を垂れ、弘法菜の花をもつのは爰(ここ)です。
「かしばみ」の実の路(みち)に落ちこぼれるのも爰です。
爰には又、野の鳥も住隠れました。笹(ささ)の葉蔭に巣をつくる雲雀(ひばり)は、老いて春先ほどの勢がない。鶉(うずら)は人の通る物音に驚いて、時々草の中から飛立つ。「ヒュヒュ、ヒュヒュ」と鳴く声を聞いては、思わず源も立留りました。見れば、不恰好(ぶかっこう)な短い羽をひろげて、舞揚ろうとして、やがてぱったり落ちるように草の中へ引隠れるのでした。
外の樹木の黄に枯々とした中に、まだ緑勝な蔭をとどめたところもある。