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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens
ありゃいけないね、あんまりゴテゴテの戒名なんぞつけたのは。子孫へ不孝っていうもんだ――なにってやがる、さんざ香このように食っといて――」
自嘲して、お酒をまた一口のんで、長いまばらな黄歯を出して見せて、
「いまじゃこの歯じゃ喰えもしないさ。」
「鰻をおあがり。」
「おおけに。」
わざと京阪言葉のまねをして、箸のさきにつけたこのわたを舌の上にたらす。
中の間の十二畳、蔵前の拭き込んだ板の間の方によって、茶だんすや菓子戸棚や、釣棚のある隅に大きな長火鉢がある。その前の座布団には、祖母か、父か、たまに母が座る。その近くに夜の洋燈も釣りさげられる。夏でもなければ庭にむかった縁側や、玄関前の庭にむかった肘かけ窓の方へ寄らず、懇意なものはみんな火鉢の方へ丸くなった。無論アンポンタンの生れた家のことで、藤木さんは此処へくると、気さくで皮肉で、小心な正直ものだった。
彼は気の弱さと小ささからくる偽悪家だった。それは若い時は仕様のない放蕩者でもあったであろうが、それは時代と環境の罪もあって、彼ばかりがわるいとは言えない。ヘドッコになってしまった江戸児の末裔は、誰もがそうであるように、辛辣な軽口で自家ざんぶをやる。