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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens
私の帰りを待っていてくれるようになった。山吹きの枝のシンを巧く長くだしてくれて、根がけにしてくれたのもその人たちだった。
鼠とり薬を売る「石見銀山」は日中か夕方に通った。蝙蝠が飛び出して、あっちこっちで長い竹棹を持ちだして騒ぐ黄昏どきに、とぼとぼと、汚れた白木綿に鼠の描いてある長い旗を担ついで、白い脚絆、菅笠をかぶってゆく老人の姿は妙に陰気くさくいやだった。日中でも、
――いたずらものはいないかな……
という声をきくと、鼠でなくても、子供でも首をひっこめた。
この家の女姉妹は、なんとなく女子供がいじって見たかったと見えて、私の髪を結ばせてくれといった。宅ではあんまりよろこばなかったが、彼女たちは私の短かい毛をひっぱって、練油と色元結でくくりつけるのを悦んだ――あたしは店さきに腰をかけて、足をブランブランさせたり、片っぽ飛ばした下駄を足さぐりしたりして、首だけ凝と据えている。
青葉がもめて、風がすっと通ってゆき、うすい埃りがたつと、しんとした正午近くは、「稗蒔き」が来る。苗売りが来る、金魚やがくる、風鈴やが来る。ほおずき売りが来る。汗ばんで来たなと思うころには、カタカタと音をさせて、定斎屋がくる、甘酒売りがくる。