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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens
薄暗い中に、紋附きの羽織を着た、斬髪の伸びた村上先生がいた。御新さんは庭で――空地で、粗末な土べっついで御飯を焚いている。その近所に、ショボショボと竹が生えているばかり、大きい方の娘さんは盥で洗濯をしていた。入口の塀の近くに、さすが井戸だけはある。下の娘も黄色い顔で、外にもあんまり出なかった。
このお医者さんは、外科はまるでだめだったと見えて、女中の足の指も腐らせてしまったが、あんぽんたんの父の手の外傷も例の膏薬で破傷風にしてしまった。がまん強い父が悪熱にふるえて、腕まで紫色に腫れ上ってしまっても、彼は貝殻の膏薬を貼りちらした。木魚のおじいさんが吃驚して、医の方で自分の先生のような木下さんという、旗本上りの顎髯の長いお爺さんを連れて来て手術をした。妙なところへ東洋風の豪傑と江戸っ子の負け惜しみをもつ父は、かなりな大手術であったであろうに、わざわざ病室から離れまで出張して――枕も上らなかったように思えたのに、八端のねんねこを引っかけて、曲によりかかり、高脚のお酒を飲みながら腕を裂かれていた。
木魚のおじいさんが助手で、膿盤は幾個もとりかえられた。強い消毒薬のかざは流れてきたが父の苦痛はすこしも洩れず、よく堪えている様子だった。