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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens
書生さんといったからとて、五十近かったかもしれない。黒い前掛けをしめて、角帯に矢立をさしている時もあった。
「あれはなんなの?」
アンポンタンがそう訊いたことがある。
「あの人は公事師といって、訴訟がすきで――三百代言……」
アンポンタンは子供心にこう理解した。代言人のとこへくるから三百代言?
三百人は来はしないが、そういう通いの書生さんは大勢来た。よく考えて見ると、自分たちの手におえなくなったものを担ぎ込んできて、便宜上、先生先生とやって来たものと見える。そのうちに、小さな仕事――差押え解除だとか、書翰の写しだとか、公判の延期だとか、相当の用をもらって、彼らはもぐりでなく、大手を振って裁判所に出入する特権を、幼くもよろこんだのであろう。
日本橋区馬喰町の裏に郡代とよぶ土地があって、楊弓や吹矢の店が連なった盛り場だったが、徳川幕府の時世に、代官のある土地の争いや、旗本の知行地での訴訟は、この郡代へ訴えたものとかで、その加減かどうか、馬喰町には大きな旅籠屋が多く残っていた。おかしなことに、古屋島七兵衛さんは、郡代の裏の、ずっと神田の附木店によった方の、小いっぽけな、みすぼらしい木賃のような宿屋の御亭主であった。