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きゅうぶんにほんばし
旧聞日本橋
長谷川 時雨
Read 旧聞日本橋 (きゅうぶんにほんばし) by 長谷川 時雨 (はせがわしぐれ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 158,045 characters · 322 screens
お正月元日は、大戸の上がところどころ明けてあった。お茶番のいる広い土間の入口の潜り戸をはいってゆくと、平日に増してお茶番の銅壺は煮たち、二つの茶釜からは湯気がたってどこもピカピカ光っていた。すぐ前の別座になっている、大格子の中が大番頭や、支配人や、一番番頭のいるところだった。頭の上の神棚にもお飾りが出来てお燈明が赤くついている。そこの前の大飾りは素張らしい鏡餅が据えてあった。海老もピンとはねていた。
夜があけるとすぐ羽根の音である。いつも番頭の並んでいる区画に、ずっと金屏風が――立派な画のもある――が廻らされて、そのうち側で羽根をつくのだが、それは朝のうちだけのことで近所の女たちが、見物に出かける時分には、屏風の前の方へ出てきている。小僧も、若者も、番頭も入交りで、ゆかりのある家の女供や近所の者が、風はなし、自由に広しするので遊びにゆくので、とても壮観な位に、しまいには屏風もとりはらってしまっての追羽根になる。騒々しい位の羽根の音だ。
糸店によった方に舞台があって、立派な衣装をつけた芝居を番頭たちが演っている。そこも見物はギッシリだ。だがこうした足どめ策をしても、やっぱり外に忍び出るものは多かった。