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ほしあかり
星あかり
泉 鏡花
Read 星あかり (ほしあかり) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 4,178 characters · 9 screens
思わずあッといって失望した時、轟々轟という波の音。山を覆したように大畝が来たとばかりで、――跣足で一文字に引返したが、吐息もならず――寺の門を入ると、其処まで隙間もなく追縋った、灰汁を覆したような海は、自分の背から放れて去った。
引き息で飛着いた、本堂の戸を、力まかせにがたひしと開ける、屋根の上で、ガラガラという響、瓦が残らず飛上って、舞立って、乱合って、打破れた音がしたので、はッと思うと、目が眩んで、耳が聞えなくなった。が、うッかりした、疲れ果てた、倒れそうな自分の体は、……夢中で、色の褪せた、天井の低い、皺だらけな蚊帳の片隅を掴んで、暗くなった灯の影に、透かして蚊帳の裡を覗いた。
医学生は肌脱で、うつむけに寝て、踏返した夜具の上へ、両足を投懸けて眠って居る。
ト枕を並べ、仰向になり、胸の上に片手を力なく、片手を投出し、足をのばして、口を結んだ顔は、灯の片影になって、一人すやすやと寝て居るのを、……一目見ると、それは自分であったので、天窓から氷を浴びたように筋がしまった。
ひたと冷い汗になって、眼をき、殺されるのであろうと思いながら、すかして蚊帳の外を見たが、墓原をさまよって、乱橋から由井ヶ浜をうろついて死にそうになって帰って来た自分の姿は、立って、蚊帳に縋っては居なかった。