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はるのやま
春の山
久生 十蘭
Read 春の山 (はるのやま) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 8,782 characters · 18 screens
表面はザラザラし、色艶が悪く、見た眼には汚いが、口造りといい、ビードロの流れといい、茶人なら飛びつくようなものである。
「これはどこから出たんだ」
「先生、たいしたもんだろうが。どこってことは、いえねえが、おれが掘出したんだ」
見識だといいたいところだが、眼も素養もない二十三の網元の伜に、味の深いこの美しさがのみこめようわけはない。色とか線とか、美の要素について審美の鍛錬を経ない素人の、こいつはいいという認容ほどあてにならないものはない。
「ほんとうに掘出したのなら、飛んだまぐれあたりだが、どうも嘘らしいな」
「嘘ってことがあるかよ、ほんとうだ」
「騙されはしないよ、誰にもらったんだ」
吉青年は頭を掻いて、
「騙せねえか。騙せねえなら白状するが、横須賀の叔父の家からチョロまかして来たんだ。売るとすれゃ、どれくらいに売れるだろう」
「好きなひとなら、どうかすると飛びつくだろうが、値をつけるような代物じゃないね」
「がっかりさせやがる。それァほんとうかい」
「おれにくれないか。そこにある絵なら、どれを持って行ってもいい」
「そんなにほしいか。そんなら、これから横須賀へ行こう。