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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(三)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(三) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 201,612 characters · 405 screens
重吉も一緒に行った。かれはお朝と運命を倶にすべくして無事に助かった幸運の男であった。参詣がすんで、七ツ(午後四時)過ぎに寺を出る頃から、空の色が俄かにあやしく黒ずんで来たので、この町内へはいる頃から大粒の雨がばらばらと落ちて来た。あわてて店へ逃げ込む途端に、大きい稲妻が一つ光った。つづいて雷が鳴り出した。
「早く雨戸をしめろ」
喜左衛門は指図して、家じゅうの雨戸を厳重に閉めさせた。このあいだの出来事から雷というものに対する恐怖心の一段と強くなっている尾張屋の者どもは、総がかりで、雨戸をしめた。障子をしめた。蚊帳を吊った。線香をとぼした。雷に対する防備を手落ちなく整えた頃には、雷雨がだんだんに烈しくなって来て、厳重にしめ切った雨戸の隙き間からも強い稲妻がたびたび流れ込んで、人々のおびえている魂をいよいよおびえさせた。暮れ六ツ頃から雨は土砂ぶりになった。雷はこの近所へ二、三ヵ所も落ちたらしかった。人々は自分たちの部屋に閉じ籠って、蚊帳のなかに小さくなっていずれも生きた心地もなかった。
雷雨は五ツ(午後八時)過ぎにようやく止んだ。それで人々もほっと息をついて、しめ切った雨戸などを明けはじめると、さらに又思いもよらない椿事の出来しているのに驚かされた。