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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(三)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(三) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 201,612 characters · 405 screens
て表の店から誰か駈けてくるらしい足音におどろかされて、槍と刀は早くも庭先に消えてしまった。澹山はそっと壁がわをはなれて、縁側に出て耳をすますと、凍っている雪を踏み散らしてゆく足音が生垣の外へ遠くきこえた。
「先生、どうなされましたか」
暗いなかで呼びかけたのは、おげんの兄の伝四郎の声であった。
「あかりを早く……」と、澹山は小声で云った。「娘御が怪我をされたらしい」
伝四郎は無言で引っ返したが、やがて店の者三、四人と共に、手燭をかざして再び駈け付けると、その火に照らされた座敷の内には、行燈が倒れていた。茶碗や土瓶がころげていた。襖の紙にも槍の痕と刀傷が残っていた。その狼藉をきわめたなかに、若い娘は血に染みて横たわっているのを一と目見て、伝四郎は思わず声をあげた。
「妹。おげん……しっかりしろ」と、かれは妹を自分の膝のうえに抱きあげて叫んだ。
「先生……」と、おげんは微かに云った。
「わたくしはここにいます」
澹山はおげんの眼のまえに顔を出した。その顔をうっとりと見つめているうちに、彼女のからだは兄の膝からぐったりと滑り落ちた。少し風邪をひいたと云って早寝をしていた伝兵衛が、眼をさましてここへ駈け付けた頃には、おげんの息はもう絶えていた。