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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(三)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(三) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 201,612 characters · 405 screens
「ここの店には内風呂があるんですか」と、半七はまた訊いた。
「ございます。店の者は車湯へまいりますが、奥では内風呂にはいります」
「この頃に風呂の傷んだことはありませんかえ」
「よく御存じで……」と、四郎兵衛は相手の顔をみた。「風呂が古いもんですから、ときどきに損じまして困ります。昨年の暮にも一度損じまして、それから四、五日前にもまた損じましたが、出入りの大工がまだ来てくれないので困って居ります」
「風呂が傷んでいる間は、奥の人たちも車湯へ行くんでしょうね」
「はい。よんどころなく町内の銭湯へまいります」
これだけのことを確かめて、半七は更に車湯へ行った。釜前に働いている勘蔵をよび出して、かれは小声で云った。
「おい、この間はありがとう。ときに少し用があるから、そこまで一緒に来てくれ」
「へえ。どちらへ……」
「どこでもいい。当分は帰られねえかも知れねえから、おかみさんに暇乞いでもして行け」
勘蔵の顔色はたちまち灰のようになった。半七に引っ立てられて自身番へゆく途中も、かれの足は殆ど地に付かなかった。彼はときどきに眼をあげて青空をじっと眺めていた。
「このあいだお前に貰った干菓子も綺麗だったが、備前屋の娘も綺麗だったな」