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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(三)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(三) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 201,612 characters · 405 screens
お直には藤太郎という兄がある。両親も揃っている。店の若い衆が二人と小僧が三人、ほかにはお広という老婢と、おすみという若い下女がいる。店がかりは派手でないが、手堅い商売をして内証も裕であるらしい。親類たちのあいだにも面倒が起ったという噂も聞かない。したがって今度のお直の家出も、内輪の事情からではないに決まっていると、お粂は保証するように云った。
「そうか」と、半七はまだ考えていた。「だが、おめえばかりの話じゃあ判らねえ。ともかくも甲州屋へ行ってみよう」
「ああ、すぐに来てください」
お粂は兄をうながして表へ出ると、暑いと云っても旧暦の七月の宵はおいおいに更けて、夜の露らしいものが大屋根の笹竹にしっとりと降りているらしかった。
二
甲州屋へ行って、お直の親たちにも逢ったが、お粂が持ってきた報告以外の新らしい事実を、半七はなんにも探り出すことが出来なかった。どの人の意見もお粂と同様で、短尺の不出来と師匠の叱言とが気の小さい娘をどこへか追いやったのであるということに一致していた。半七も先ずそう考えるよりほかはなかった。
越ヶ谷の方に甲州屋の親類があって、お直は母につれられて一度行ったことがあるので、よもやとは思うものの、兄の藤太郎が店の者をつれて、あしたの早朝に越ヶ谷へ訪ねてゆくことになっている。