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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(三)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(三) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 201,612 characters · 405 screens
「おい、誰かそこにいるか」
「あい」
台所につづいた六畳の間に、大きい火鉢を取りまいていた善八と幸次郎とがばらばらと起って来た。
「おめえたちはあま酒売りの婆さんを知っているか」と、半七は訊いた。
「出っくわしたことはありませんが、噂だけは聞いています」と、善八は答えた。
「伊丹の旦那からのお指図だ。どうにかしにゃあならねえ。この一件は俺ばかりじゃねえ、みんなも総がかりでやる仕事だから、なんでも早い勝ちだ。そこであんまり知恵のねえ話だが、まあお定まりの段取りで仕方がねえ。おめえ達はこれから手わけをして、甘酒の卸し売りをする問屋をみんな探してくれ。婆だって自分の家であま酒を作るわけじゃあるめえ。きっとどこかで毎日仕入れて来るんだろうから、そういう変な婆が来るか来ねえか、方々の店で聞き合わせてくれ。こんなことは誰もがみんな手をつけることだろうが、こっちも心得のために一応は念をついて置かにゃあならねえ」
ふたりの子分を出してやって、半七は午飯を食ってしまうと、三月末の春の日はうららかに晴れていた。家にぼんやりと坐ってもいられないので、半七はどこをあてとも無しに神田の家を出て、百本杭から吾妻橋の方角へ、大川端をぶらぶらと歩いてゆくと、向島の桜はまだ青葉にはなり切らないので、遅い花見らしい男や女の群れがときどきに通った。