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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(五)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(五) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 215,744 characters · 434 screens
お袖は顔の色を失って、口も利かれなかった。
お琴は寺男に水を貰って、お袖に飲ませた。自分たちも飲んだ。山を降りると、急に暑くなったように思われたので、お琴は手拭を絞って顔や襟の汗を拭いた。しかも山のなかで怪しい少女に出逢ったことは、寺男にも話さなかった。
「家へ帰っても黙っておいでなさいよ。誰にも決して云うのじゃありませんよ」と、お琴はお由に固く口留めをした。
三人は不安な心持で関口屋の店へ帰った。取り分けてお袖はぼんやりして、その晩は夕飯も碌々に食わなかった。
お琴はきょうの一条を夫の次兵衛にも打ち明けなかった。夫に余計な心配をかけるのを恐れたばかりでなく、自分もそれを口にするのが何だか恐ろしいように思われたからである。翌日も再びお由に注意して、かならず他言するなと戒めた。三人は後をも見ずして逃げて来たのであるから、かの少女が自分たちを見つけたかどうだか一向に判らなかった。覚られなければ幸いであると、お琴は心ひそかに祈っていた。
その頃、誰が云い出したのか知らないが、コロリの疫病神を攘うには、軒に八つ手の葉を吊して置くがいいと云い伝えられた。八つ手の葉は天狗の羽団扇に似ているからであると云う。