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はんしちとりものちょう

時代推理小説 半七捕物帳(四)

岡本 綺堂

Read 時代推理小説 半七捕物帳(四) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 217,272 characters · 434 screens

Aozora Bunko

「おい、お仙」と、彼はやがて女房を呼んだ。「ちょいと出てくるから着物を出してくれ」

「これから何処へ出かけるの」

「熊のところまで行ってくる。あしたと約束したのだが、思いついたら早い方がいい。このごろは日が長げえから」

まったくこの頃の日は長い。半七が神田の家を出たのはもう七ツ(午後四時)に近いころであったが、初夏の大空はまだ青々と明るく光っていた。表には金魚を売る声がきこえた。愛宕下へ行って熊蔵の湯屋をたずねたが、店はもう客の忙がしい刻限であったので、半七は裏口へまわってそっと呼び出すと、熊蔵はきょろきょろしながら出て来た。

「親分。早うござんしたね」

「むむ。急に思いついたことが出来たので、すぐに出て来た。これから田町へ案内してくれ」

「庄五郎の家ですかえ」と、熊蔵はいよいよ其の眼をひからせた。「親分。なにか当りがあるんですかえ」

「まあ、行ってみなけりゃあ判らねえ」

熊蔵に案内させて田町の鋳掛屋へ出かけてゆくと、隣りは小さい下駄屋で、その店との境に一本の柳が繁って垂れているのも、思いなしか何となく寂しくみえた。三十五日が過ぎれば世帯をたたむ筈になっているので、店こそ明けてあるが商売は休みで、小僧の次八がぼんやりと往来をながめていた。