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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(四)
岡本 綺堂
Read 時代推理小説 半七捕物帳(四) (はんしちとりものちょう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 217,272 characters · 434 screens
「さあ、午飯だ。どこにしよう」
繁昌と云っても今日のようではないので、門前の休み茶屋の数も知れている。毎月の縁日とは違って、きょうは初大師というので、どこの店もいっぱいの客である。いっそ川崎の宿まで引っ返して、万年屋で飯を食おうと云って、二人は空腹をかかえて、寒い風に吹きさらされながら戻って来ると、ここらもやはり混雑していて、万年屋も新田屋も客留めの姿である。二人は隅のほうに小さくなって、怱々に飯をくってしまった。
「まあ、仕方がねえ。江戸へ帰るまで我慢するのだ」
ここで草鞋を穿きかえて、六郷の川端まで来かかると、十人ほどが渡しを待っていた。いずれも旅の人か江戸へ帰る人たちで、土地の者は少ない。そのなかで半七の眼についたのは三十二三の中年増で、藍鼠の頭巾に顔をつつんでいるが、浅黒い顔に薄化粧をして、ひと口にいえば婀娜っぽい女であった。女は沙原にしゃがんで、細いきせるで煙草を吸っていた。庄太はその傍へ寄って煙草の火を借りた。
「天気はいいが、お寒うござんすね」と、庄太は云った。
「雪のあとのせいか、風がなかなか冷えます」と、女は云った。
そのうちに船が出たので、人々は思い思いに乗り込んだ。