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あさかのみやでんかにじしてみなみアルプスのたび
朝香宮殿下に侍して南アルプスの旅
木暮 理太郎
Read 朝香宮殿下に侍して南アルプスの旅 (あさかのみやでんかにじしてみなみアルプスのたび) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,765 characters · 26 screens
槇君は早速セロスで湯を沸かし、紅茶を淹れて殿下に差上げる。午前中何かと手間が取れたので、長く休んでは居られなかった。
間もなく広河内の右岸に渡って、右に折れると小籠の落合に出る。谷は急に開けて、大きな岩の塊が狼藉している。古い山抜けの跡であろう。続いて大籠の沢も荒くれた岩の頽れである。此処から河原が通れなくなるので、突出した尾根の先端を急に三百米も攀じ登って、陰湿な森林の山ひらを辿って行く。姥百合が多い。根は食用になるそうであるが、見たところ花も葉も何となく気味の悪い植物である。一時間足らずで再び広河内に出た。
谷の様子はすっかり下流と変って、荒れた河床は勾配が著しく急となり、崖崩れの為に押倒された生々しい大木が、髪を乱したように入り交って横たわっている間を、水は逆落しになってたぎり落ちて来る。主として左側の巨岩の堆積している所を登った。誰も余り口をきかない。殿下のピッケルの尖端が岩に当ってカチンカチンと鳴る。谷の幅が少し広くなって、稍西南の方向を指すようになると、細かい沙地に河楊などのこんもり生えている場所に来た、傍の林の中には古い小屋の屋根が見えなどする。