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きのこせっぽう
木の子説法
泉 鏡花
Read 木の子説法 (きのこせっぽう) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,107 characters · 34 screens
餅屋が構図を飲込んで、スケッチブックを懐に納めたから、ざっと用済みの処、そちこち日暮だ。……大和田は程遠し、ちと驕りになる……見得を云うまい、これがいい、これがいい。長坂の更科で。我が一樹も可なり飲ける、二人で四五本傾けた。
時は盂蘭盆にかかって、下町では草市が立っていよう。もののあわれどころより、雲を掻裂きたいほど蒸暑かったが、何年にも通った事のない、十番でも切ろうかと、曾我ではなけれど気が合って歩行き出した。坂を下りて、一度ぐっと低くなる窪地で、途中街燈の光が途絶えて、鯨が寝たような黒い道があった。鳥居坂の崖下から、日ヶ窪の辺らしい。一所、板塀の曲角に、白い蝙蝠が拡ったように、比羅が一枚貼ってあった。一樹が立留まって、繁った樫の陰に、表町の淡い燈にすかしながら、その「――干鯛かいらいし――……蛸とくあのくたら――」を言ったのである。
「魚説法、というのです――狂言があるんですね。時間もよし、この横へ入った処らしゅうございますから。」
すぐ角を曲るように、樹の枝も指せば、おぼろげな番組の末に箭の標示がしてあった。古典な能の狂言も、社会に、尖端の簇を飛ばすらしい。