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しゅにっき
朱日記
泉 鏡花
Read 朱日記 (しゅにっき) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,583 characters · 28 screens
――風に紛れて針の音が全く聞えぬ。
そう言えば、全校の二階、下階、どの教場からも、声一つ、咳半分響いて来ぬ、一日中、またこの正午になる一時間ほど、寂寞とするのは無い。――それは小児たちが一心不乱、目まじろぎもせずにお弁当の時を待構えて、無駄な足踏みもせぬからで。静なほど、組々の、人一人の声も澄渡って手に取るようだし、広い職員室のこの時計のカチカチなどは、居ながら小使部屋でもよく聞えるのが例の処、ト瞻めても針はソッとも響かぬ。羅馬数字も風の硝子窓のぶるぶると震うのに釣られて、波を揺って見える。が、分銅だけは、調子を違えず、とうんとうんと打つ――時計は止まったのではない。
「もう、これ午餉になりまするで、生徒方が湯を呑みに、どやどやと見えますで。湯は沸らせましたが――いや、どの小児衆も性急で、渇かし切ってござって、突然がぶりと喫りまするで、気を着けて進ぜませぬと、直きに火傷を。」
「火傷を…うむ。」
と長い顔を傾ける。
二
「同役とも申合わせまする事で。」
と対向いの、可なり年配のその先生さえ少く見えるくらい、老実な語。
「加減をして、うめて進ぜまする。