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ますおとし
枡落し
山本 周五郎
Read 枡落し (ますおとし) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 33,765 characters · 67 screens
二人が出てゆくのを、うっとりした眼で見送ってから、おみきは仕事台に向かって坐った。おうめは十七、芳造は二十三。あたしとあの人とは七つ違いだった、七難九厄などということは信じもしなかったけれど、やっぱりそれが当ってしまった。――あの人も初めからあんなではなかった。お父っつぁんに見込まれて養子になり、あたしと夫婦になったころは、まじめで仕事熱心で、酒もタバコも口にしない、素っ堅気な職人だった。それが、お父っつぁんが亡くなってからぐれだし、仕事はそっちのけで酒びたりになり、悪遊びに浸りきるようになった。
「どうしてだろう」とおみきは仕事を続けながら呟いた、「もともとそういう性分で、猫をかぶっていたのが、お父っつぁんが亡くなったので本性をあらわしたのだろうか、それとも、――なにかほかにわけがあったのだろうか」
そのじぶんは日本橋石町に店があり、職人も七人、下女、飯炊きなど、十一人の家族であった。父は新五郎、母はなかった。おみきが三歳のとき死んだそうで、おみきは顔も覚えてはいない。父はおみきを溺愛した。おまえはおふくろにそっくりだ、と云っては晩酌の向うに坐らせて、酒や肴を喰べさせた。