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かきいろのかみふうせん
柿色の紙風船
海野 十三
Read 柿色の紙風船 (かきいろのかみふうせん) by 海野 十三 (うんのじゅうざ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,032 characters · 28 screens
(おオ、おオ)
と向いの一二二二号が小窓から顔を出して、私にサインを送った。彼はこの刑務所へ入って出来た最初の友達であり先輩だった。本名は五十嵐庄吉といい、罪状は掏摸だとのことだった。
さて私は、その日から、痔の治療をうけることになった。何かにつけ、娑婆とは段違いに惨めな所内ではあるが、医務室だけは浮世並みだった。
「少し痛いが、辛抱しろよ」
と医務長は云った。なるほど手術は痛くて、蚕豆のような泪がポロポロと出た。
独房へ帰って来ても、痛くて起上れなかった。このままでは、腰が抜けてしまうのではないかと思った。私はそのとき、箒の中に隠してあるラジウムを思い出した。私は朝と夜との二回、ラジウムを取り出して患部にあてた。そして毎日それを繰返した。
「どうだ、吃驚するほど、早くよくなったじゃないか」
と医務長は得意の鼻をうごめかせて云った。
「へーい」
私は感謝をしてみせたが、肚の中ではフフンと笑った。医務長の腕がいいのではない。私のやっているラジウム療法がいいのだ。――こんなわけで、痔の方は間もなく癒ってしまった。
それからは、まことに単調な日が続いた。
初めのうちは、刑務所ほど平和な、そして気楽な棲家はないと思って悦んでいた。