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ばいしのつえ

梅颸の杖

吉川 英治

Read 梅颸の杖 (ばいしのつえ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,966 characters · 32 screens

Aozora Bunko

もう、随所で、そんな相談が交された。

山陽は、その間を、誰へも平等に快活な会話を撒いていたが、時々、文人かたぎな諧謔に爆発する笑声が、彼を中心に賑わって時を移していた。

実をいうと、彼は、きょうの案外な知己の好意にすこし迷惑を感じた。なぜというに、この前――三年程まえに初めて母の梅を京都に迎えて、自分の生活の安定を見せ、かたがた洛中洛外を見物させて歩いた折に、山陽の疾駆的な名声に圧倒されて、ひがみっぽくなっている儒者の一派が、

『彼は瓜園の老媼までひき出して売名の具にする』

と、暗にそれを偽善のように言いふらした例があるので、きょうは、誰にも告げずに来たつもりだった。

だが、彼の好きな信長の現われのように、芸州藩の一儒者の家から出て、預けられた茶山の塾の壁に「山凡、水愚、先生鈍」の出奔遺書をのこして京地へ走った一書生の頼久太郎は、今では、山陽外史頼襄の名を、日本的に銘記してしまった西都文壇の巨匠でもあり流行児であった。そうした彼が、常に周囲から神経質な目をそそがれている山紫水明処の書斎を出れば、すぐに、これ位な消息は洩れないわけは無かった。

又こうして、すでに一家を成している学者、文人、画家などの一癖ある人間ばかりの間に立って、黙笑だけで頷いていても、彼の酒窶れのある苦ッぽい顔や、頭の大きさに比較して細い