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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 112,073 characters · 223 screens
それは彼女たちを傷つけ、不幸にするだろう。情欲が女たちを傷つけ、醜くくし、不幸におとしいれる例は、数えきれないほど見もし聞きもしている。しかも、それがたしかであればあるほど、彼女たちはそれにひきつけられ、身を任せたい衝動に駆られる。かなしいものだ、と甲斐は思った。かなしく愚かしいが、美しく真実だ。少なくともこの娘たちの感じている情欲は真実で美しい、と甲斐は心のなかで呟いた。
「舟小屋には渡し守がいるべえにさ」
「夜の八時限りだ」ときよきがふじこに云った。
夜の八時限りで渡しは止まる。渡し守も家へ帰ってしまう、あとは戸口へ草の穂をさしておけば誰もはいってはこない、ときよきが云った。草の穂をさすだって。んだ、中でいいことしてる者がいるって印さ。はあそうか、それでわかった、とふじこが頷いた。なにがわかっただ。なにがって、おめえが「くびじろ」をみつけたわけがよ。どんなわけだ。おめえは舟小屋へ誰かといって、それで「くびじろ」をみつけただべが、とふじこが云った。
甲斐が顔をあげた。「くびじろだって」と彼は娘たちを見た、「誰かくびじろを見たのか」
「おめえは」ときよきが、ふじこに手をあげた。