Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Read 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 145,078 characters · 285 screens
正午ちょっと過ぎに、伊達家の人びとは酒井邸に着いた。申次の島田出雲守と大井新右衛門が出迎えて、かれらを表て座敷に案内した。そのときもう大書院には、雅楽頭はじめ老中、大目付、目付らが揃っていた。稲葉美濃守、久世大和守、土屋但馬守、板倉内膳正。大目付は大岡佐渡守、目付は宮崎助右衛門で、伊達家の人びとが到着するとまもなく評定がひらかれ、まず安芸が呼ばれて出た。
ちょうどそのとき、同じ邸内の勘定場では、黒田玄四郎が役机に向かって、帳面を繰りながら算盤をはじいていた。その部屋は広く、格子で囲いをした机が、大小合わせて十二あり、小さい囲いに二人、大きい囲いには二人から三人、それぞれの事務を執っていた。午の前後に半刻の休息があり、茶菓の出るのがきまりだったが、その日は支配が「事務を続けるように」と云い、勘定場からはなれてはならぬと注意した。
――なにかあるな。
みんなそう思って眼を見交わした。
――なにか変ったことがあるぞ。
老中評定が急にこの邸内へ移されたことは、すでにみんなが聞いていた。それで、休息がやめになり、部屋から出るなと云われて、勘定場の空気はにわかに緊張し、咳をするのにも周囲に気をかねる、というふうに感じられた。