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はるはばしゃにのって
機械・春は馬車に乗って
横光 利一
Read 機械・春は馬車に乗って (はるはばしゃにのって) by 横光 利一 (よこみつりいち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 77,492 characters · 156 screens
先年役所(刑務所)の庭に造った池に、所長さんの処から一株の水蓮を根分けしていただいたことがある。この水蓮は刑務所の池へ移されて来ても、少しもかわるところがない。やはり水蓮としての性を十分発揮してその可憐(かれん)なやさしい美しい花を開いているではないか。この水蓮の可憐な花の姿に加藤君は魂をうたれた。人間であればいかなる偉い人でも、刑務所へ移されると態度が変ってしまう。それなのに水蓮は移されたことも知らぬ顔に咲き誇っている。なんたる自然の偉大さであろう。出来得べくんば自分もこの水蓮の花のように、如何(いか)なる事件に逢おうとも心を動かすことなくありたい。これが加藤君の水蓮によって悟入した心境であった」
師匠というものは弟子の心をよく知っているものだが、高次郎氏もまた、水蓮のような人として師の眼に映じていたにちがいない。この遺歌集の最後の二首は、また氏の最後のものらしく円熟した透明な名残(なご)りをとどめている。
「しののめはあけそめにけり小夜烏(さよがらす)天空高く西に飛びゆく」
「大いなるものに打たれて目ざめたる身に梧桐(あをぎり)の枯葉わびしき」